デビルズ・ダブル「ある影武者の物語」

 デビルズ・ダブル「ある影武者の物語」2012‐03‐06…R-18指定映画…ウダイ・フセイン(サダム・フセインの長男)の影武者が語った真実を映画に仕上げた作品です。事実だからこそ歪んだ物語に仕上げる事は許されない、ゆえに映画として観賞するとラストが物足りないと感じるかも知れません。それだけに嘘が混じらない映画でしょう。

 サダム・フセインには二人の息子がいましたが、長男の素行が悪い事は側近だけでなく周知の通り、彼の名はウダイ・フセイン、だが影では「ブラック・プリンセス」と呼ばれ、劣情の限りを尽くして生きているような人物だった。

 この男が影武者に選んだ人物は「ラティフ・ヤヒア」という、高校時代の同級生。顔が似ているという理由から影武者に選ばれて家族の命と引き換えに引き受けたとされている。

 この影武者にされたという話は出版され(現在日本国内では入手できないと思われる)その出版物を基に制作された映画です。

 もしもサダム・フセインが現在も生きていれば(2003‐12‐13米軍により逮捕、裁判後2006‐12‐30に絞首刑により没)その権力により出版はされていないだろうし、本人も報復を恐れてペンを握ってはいないだろう。ちなみにウダイ・フセインは米軍の邸宅突撃により2003‐07‐22、弟の「クサイ」と共に死亡している。

 さてストーリーだが、元々ノンフィクション映画として脚本を制作している。ネットで「ウダイ・フセイン」及び「サダム・フセイン」の経歴を調べたが、映画で描かれていたストーリーと全く同じであった。無論、随所を見れば脚色されている場面が多いが、ノンフィクションという関係から目ぼしいストーリーはない。アクションシーンも目を見張るような場面は皆無と考えて期待しない方が良いだろう。

 その反面、ウダイ・フセインが、時の権力を盾にどのような悪行を行っていたのか、また、(様々なニュースを読むと)女(性行為という意味)と酒を365日、24時間楽しみ、日常的に暴力と略奪を繰り返していたらしく、映画の中でもこの点は重点的に描かれていた。また実際の戦闘シーンも随所で使われている点から監督の意図を読み取れば、フセイン家族を描写しようとしていたのではないだろうか?

 もちろんフセイン一家を擁護する立場の人もいれば、彼らを憎む立場の人もいる訳で、歴史として考えた場合、彼らのしたことがすべて悪いと言えるわけではない。遠い将来、この事実が教科書に載った時、判断するのは未来の人間であり、現代の私達(直接かかわりのない立場の人という意味)が外部から「あれこれ」という資格はないと思う。

 さて見どころだが、一番はドミニク・クーパーが演じる一人二役だろう。影武者という内容だから瓜二つの人物がいる設定に成る。と成ればその二人を一人の人間が演じればことは丸く収まる。ところが実際問題として似ているが別人なわけで、それを一人の役者が演じるとなれば大変である。もっとも役者は「自分自身ではない誰か」を演じるのが仕事であるし、演じきれる自分を誇りに感じるだろう。

 そういった意味では、時の権力者と影武者という二役を一人で演じるという誇り、と不安、さらにはチャレンジ心が入り混じって出演を決定したのだろう。実際に映画を見ればわかるがドミニク・クーパーが演じる一人二役は見事というしかない。映画のパンフレットなどを見れば「怪演」という表現をしていたが、私から見れば「凶演」である。一人で二人分の共演をしている、という意味である。

 ところで物語で一番肝心な点はラストシーンである。いくら映画の最中がとても素晴らしい出来上がりだとしても、最後の演出が悪ければ、映画に対する印象が悪くなる。逆に言えば途中が少々悪くてもラストシーンで盛り上がれば観客は喜ぶともいえる。もちろん限界はあるが、ラストの締めくくりに一番苦労する点だろう、とどの映画を見ても思ってしまう。この点から言えば少々物足りない最後であった。

 映画を見ていると観客の心理として「たぶん、こんな感じで終わるのでは」という勝手な推測が成り立つ。言い換えると物語に対する期待が、ラストシーンに対する期待でもあり、物語の完結は「このようになって欲しい」という願望である。例えば「友人が恋人と結婚して欲しい」という感情と「友人は恋人と別れて、その恋人が自分の恋愛対象に成れば」と願う気持ち、その両方がこの世に存在するという事実を考えてほしい。

 もちろんその両方の願望を一度に持つことは滅多にないが、その通りに進むと「うれしい」という感情が起こり、思う通りに現実が進まない時の「悔しい」という感情と対立する。これが人間の感性であり、ロボットとは違う。これと同じ事が映画のラストシーンに対する期待にも言えて「観客が望む演出」と「観客が望まない演出」両方が存在して初めて映画に対する評価が決まる、と私は考えている。

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