ブラック・スワン(BLACK SWAN)

映画「ブラック・スワン(BLACK SWAN)」を見に行きました。ごく短い言葉で表現すれば、主役に抜擢された「ニナ・セイヤーズ」の精神状態が現実の世界と妄想の世界を行き来する様を、バレエと言う特殊な職業、環境を利用し、表現しているようなイメージです。

 ところがここで一番重要なのは「妄想」と言う言葉で、似たような言葉は数多くあり、例えば「幻覚、幻聴、錯覚、錯乱」等、どの言葉を使えば、より分かり易く、尚且つ作品のイメージに一番似合っているだろうか?

 ちょっとした言葉の意味の違いではあるが、何度もストーリーを思い返しては、それぞれの意味を慎重に考えながら文章として当てはめてみましたが、その結果としての「妄想」と言う単語を選びました。そのぐらいエキサイトだし、計画された不調和音の創造と言うべきかも知れません。

 作品はR15+に指定されていますので、官能的なシーンもありますが、官能と言う世界を求めている訳ではなく、精神的に追い詰められていく主人公の姿を独自の世界観で表現していて、結果的にそれらが要因となる、R15の指定だと個人的には考えています。

 映画の冒頭から、観客を魅入らせる為のテクニックが駆使され撮影されています。もちろんすべての映画に共通する事ですが、作品の冒頭で、観客に強い魅力を抱かせる事が出来なければ、その後に続く物語で観客の心を揺さぶる事は難しくなります。ゆえに映画の冒頭部分では作品の趣旨に見合った手法を取り入れて撮影されるのが常です。

 その手法の中でもオーソドックスなのが「実は夢を見ていた」という筋書きです。もちろん誰でも思いつくテクですから、上手な表現を用いる事が出来なければ、非常に陳腐な作品に仕上がります。ですが逆に、上手な演出を思いついた監督(もしくは脚本家などのスタッフ)が撮影すれば、想像以上に観客の心をわしづかみにすることが可能です。

 今回の映画「ブラック・スワン」に関して言えば、この手法が見事にはまり、映画館の中で観客たちは、息づく暇もなく次なるステップへと進まされていきます。それ以後に待ち受けているのは「計画された不調和音」であり、誰でもが人生で一度は味わった事があるだろう、妄想の世界を人間の裏側から垣間見ることになる。

 そこで表現されるのはダンス「白鳥の湖」を通して、主役に抜擢された人物の精神状態の描写である。自らが強く望んでいた主役、それがゆえに「人に取られたくない」という隠れた心理、そして同僚から感じる嫉妬心、自分の技量、ダンスセンスに対する不安、母親の過度な愛情など、これらも含めた様々な要素が複雑に絡み合い、物語は進行する。

 そして日常では不可思議に感じるストーリーや主人公の精神状態も、あたかも正常であるかのように感じさせ、観客の人生に溶け込んでいく。分かり易く言えば「ある任意の場面をどのように画像に取り込むか?」によって観客の鑑賞心理に違いが出る。そのあたりを私は「計算された不調和音」と表現しているだけの事だ。

 例えば観客が「怖い」と感じる為に必要なシーンは何か? 不安を感じさせる要素は何か? 興奮させるために必要な場面は何か? 他にも必要となる要素はあるが、これらは全て事前に計算されている。その計算に基づき観客の心をつかむために「不安要素」を大目に取り入れている、と個人的に判断しました。

 さすがに「第83回アカデミー賞」の主演女優賞を受賞し、作品賞、監督賞、撮影賞、編集賞にノミネートされただけの価値があり、見ごたえのある作品に仕上がっています。

 また「第68回ゴールデン・グローブ賞」主演女優賞も受賞し、作品賞、監督賞、助演女優賞にノミネートされています。

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